伝説の灘校国語教師、橋本武先生(享年101歳)の指導法をご紹介します。
橋本武先生が指導した卒業生には、東京大学学長や最高裁裁判所事務総長や県知事など、そうそうたる人物がおり、いまでも橋本先生の授業を懐かしく思い出すそうです。
では、その指導法とはどのようなものだったのでしょう。
1冊の文庫本を3年間かけて、遊び感覚で学んでいく
橋本先生は、「教科書を使わず、中学の3年間をかけて中勘助の『銀の匙』を1冊読み上げる」国語授業を開始されていました。
その結果、生徒たちの国語の力を大きく伸ばしました。
この授業を受けた最初の生徒たちが、6年後の春には東京大学に15名合格(1956年)更にその6年後には東京大学に39名・京都大学に52名合格(1962年)、また更に6年後には132名が東京大学に合格し、東大合格者数全国一位となりました(1968年)。
しかし橋本先生は大学受験のために、授業をされたわけでありません。
「押し付けられてやる勉強はつまらない」
と思った橋本先生は、
「遊んでいるような感覚で心が弾む」
「生徒一人ひとりの人生の糧になるような授業」
を目指したのです。
凧を作って上げたり、駄菓子を食べたりして、作品中の出来事や主人公の心情の追体験にも重点を置き、
毎回配布するガリ版刷りの手作りプリントには、頻繁に横道に逸れる仕掛けが施され、
様々な方向への自発的な興味を促す工夫が凝らされていました。
私は、橋本先生の授業は、特に男子に合っていたと考えています。
男子は、女子よりも国語を苦手としている子が多いです。
しかも、 男子は真面目に漢字練習をしたり、意味調べをしたりするのを面倒くさがります。
しかし、いったん興味を持ち始めると、面白がって、進んで調べ始めたりするのです。
「言われたことを真面目にきちんとする」
のでなく、
「面白いから、どんどん自分からやりだす」
のです。
「遊び感覚で、自分から学んでいく」
これが、橋本先生の目指したものでした。
この方針が男子のやる気に火をつけたのです。
「横道にそれる」~冒険をするように楽しく学ぶ
橋本 武先生(享年101歳)の授業は、「横道にそれる」ことを大切にした学びでした。
「寄り道をする」と言い換えてもいいかもれません。
学校の行き帰りに寄り道をしたことはないでしょうか?
私はよくありました。
子どもは何か面白そうなものを見つけて、寄り道をするものです。
道端に季節の花が咲いているのを見つけたり、池の魚に給食の残りのパンをやったり、公園で可愛い子猫を見つけていっしょに遊んだり、子どもにとってはワクワクする実に楽しい時間です。
特に男の子は、冒険好きですから寄り道も好きです。
勉強でも、決められたことを決められたとおりやるより、面白そうなものを見つけて、寄り道したほうが楽しくなります。
たとえば、国語で文中に自分が気になる言葉があれば、その語源を徹底的に調べることが「横道」であり「寄り道」です。
「この熟語は重要だから調べなさい。テストにでるよ」
と言われるより、
自分がわからないから、もっと深く知りたいから調べたほうがずっと楽しいものです。
その結果、横道にそれまくって、テストとは全然関係ないことにも幅広く興味をもって調べます。
時間を忘れて、夢中になって、それこそ遊ぶように学びます。
このやり方は、一見、非効率的です。
1冊の本を3年間かけて勉強する橋本先生の学習法も目先のテストで点数を取るためには、非効率的です。
しかし、その横道にそれまくった学習で、男の子たちは楽しく学び、国語の力をぐんぐんつけていきました。
遊ぶように夢中で学んで得た知識や学習技能はしっかりと自分のものになるのです。
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【出典】橋本武著『伝説の灘校教師が教える 一生役立つ 学ぶ力』橋本武著『伝説の灘校国語教師の「学問のすすめ」』