男女の違いを知り、その特性に応じて教育すれば、男女両方ともその良さをいっそう伸ばせます。
そこで、男女の違いについて拙著『男女別学で子どもは伸びる!』(学研パブリッシング)に記載したことを中心にご紹介します。
PISA調査が教える世界共通の学力の性差とは?
一般に男子は算数・数学が得意で、女子は国語を得意とする傾向があります。
これはPISA調査によると、統計の上、確認されていることです。
PISA(Programme for Interanatyonal Student Assessment)調査とは、「OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査」のこと。
参加国が協同して15歳児を対象として、2000年から3年ごとに学習到達度問題を実施しました。それぞれ読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーを調査したものです。
その結果は、全参加国の平均がほぼ500点になるように計算されています。
2012年の結果によると、読解力では、65か国すべての国で、女子が男子の方が女子を上回っています。
OECD加盟国の平均は、男子478点、女子515点で、38点ほど女子が高くなっています。
日本は男子527点、女子551点で、24点ほど女子が高くなっています。(得点及び差は整数値に丸めた値であり、引き算した数値とは必ずしも一致しない)
一方、数学的リテラシーでは、ほとんどの国で男子の方が女子より高くなっています。
OECD加盟国の平均は、男子499点、女子489点で、11点ほど男子が高くなっています。
日本は男子545点、女子527点で、18点ほど男子が高くなっています。
ちなみに科学的リテラシーの分野で、OECD加盟国の平均点は男子が502点に対し女子が500点です。
日本は男子525点、女子541点とあり、読解力や数学的リテラシーほどの差はありません。
このような学力の性差は、2000年以降、毎回同傾向が見られます。
男女は学習態度が違う
男女では学習態度が違います。
それは日本だけではありません。学力世界一と言われるフィンランドの子どもたちも
同様です。
フィンランドの子どもたちは、2000年、2003年、2006年のPISA調査で世界トップレベルの学力を身につけていることがわかりました。
フィンランドでは、学校間の学力差は少なく、その点で高い評価を受けています。
しかし、この学力世界一と言われるフィンランドの子どもたちですが、実は男女の学力差が大きいことはあまり知られていません。
2000年のPISA調査の結果によると、総合的には女子の方が成績はよく、特に読解力の得点の男女差では、51点(OECDの平均の男女差は32点、日本は30点)でした。
これは世界トップレベルの男女差です。
フィンランドの読解力の男女差は、2003年は44点、2006年は、51点、2009年は55点、2012年は62点となっています。
なぜフィンランドでは男女差が大きいのでしょうか。
その理由の大きな要因として、フィンランドでは女性が自立していくことは当然とされる社会事情があるため、必然的に女子の学ぶ意欲が高くなるという背景があるそうです。
もう一つ、フィンランドのジェンダー教育に詳しい、女子栄養大学大学院教授の橋本紀子氏がフィンランド国立教育局(National Board of Education)でPISAの仕事にも関わってきたリトヴァ・ヤックシッヴォネン氏への聞き取り調査したところ、この疑問について次のような返答があったそうです。
女子のPISA調査での成績が良いのは、「教師に女性のほうが多いからとか、カリキュラムが女性向きにできているから女子生徒に有利だというのもある。しかし、証明すべきデータも出さずになされる説明には賛成できない」(橋本紀子著『フィンランドのジェンダー・セクシュアリティと教育』明石書店)とのこと。
さらに、私にはとても興味深くご紹介したいと思ったのは、そのリトヴァ氏が次のように語っていることです。
「ファインランドの場合、女子は先生に言われたルールどおりに勉強するが、男子はそういうことは苦手で、あまり言うとおりにやらない。だから、成績は女子の方がよくなる」(前掲書)
興味深いと思ったのは、このことはファインランドだけでなく、他の国でもあてはまることだからです。
日本でもルールを守り、先生の言うとおり真面目に勉強できるのは女子に多く、男子のほとんどはそういうことは苦手です。
また、リトヴァ氏によると「男子は先生とすぐ、議論を始め、クラスの方向性や次に何をするのかなどについて、主導的な立場に立ちやすい。クラスの決議などをリードしたりするのも男子だ」(前掲書)とのこと。
これも、昨今は女子が元気がよくなってきたので様子は少し変わってきましたが、先生に議論をふっかけたり、または冗談でクラスをわかせたりして、クラスの雰囲気をつくるのは、日本でも男子が得意とするところです。
日本でもフィンランドでも(拙著で述べていますが、アメリカでも、韓国でも)男子と女子の学習態度は違うのです。
男女は感情の処理の仕方が違う
ハーバード大学の研究グループがMRI撮影法を使って7歳から17歳まで子どもたちの脳で感情がどう処理されるかを調べたことがあります。
その結果、わかったことを要約します。
幼い子どもでは不快もしくは不安をかきたてるネガティブな情報は、脳の奥深くある古い部位、とりわけ扁桃体で起こることがわかりました。
思春期のころ、女子の場合、扁桃体で起こっていた活動は、大脳皮質に移ります。
しかし、男子の場合は、そのまま変化が生じません。
ですから、女子は自分の感情を言葉で表現しやすくなり、それが自然にあふれでるようです。
しかし、男子は、幼い子どものように、自分の感情を言葉で表わすのは苦手なのです。
このような脳の構造の性差は、あきらかに教育にもかかわってきます。
たとえば、国語で文学作品を読解する授業では、「もしあなたが登場人物なら、どう感じますか?」と問うことがあります。
この発問に女子は、豊かな言葉で答えることができても、男子にはやや難しくなります。
というのは、この質問は、男子にとって、通常はいっしょに働くことのない扁桃体の感情的な情報と大脳皮質の言語的な情報をつなぐことを要求するからです。
また、この性差は読書の好みにも影響をもたらします。