聞く力や集中力や持続力が弱い子が増えた
「読み聞かせ」は、子どもの様々な能力を育てます。
特に「聞く力」は確実に向上します。
聞く力の弱い子、とくに男の子におすすめしたいのが「読み聞かせ」です。
最近の男の子はやたらと落ち着きがなく、人の話をきちんと聞く力に乏しい傾向があるようです。
そういう子に、「しっかり話を聞きなさい」と注意しても、一時的にはできるのですが、長続きしません。聞く力の土台となる集中力や持続力が弱いからです。
ことに、テレビやテレビゲームやスマホ中毒の子どもに、その傾向が強いように思えます。
学校でも社会でも、人の話がきちんと聞けるということは、とても大切です。
なぜなら、情報の多くは、人から聞くことによって得ることができるからです。
学力を獲得する点でも、聞く力は読み書き以前の基礎的な能力なのです。
たとえば、朝礼で校長先生の話があった直後、教室で子どもたちに「今日はどんな話だったかな」と尋ねてみると、その内容をしっかり聞いて覚えている子もいれば、まったく覚えていない子もいます。
理解力、記憶力、表現力に違いがあるのは当然ですが、聞いたことを理解し、記憶し、第三者に伝えるためには、まず人の話をしっかり聞くことがどうしても必要なのです。
「読み聞かせ」で様々な力が伸びて、親子の絆も強まる
では、どうすれば聞く力がつくのでしょうか。
家庭でもカンタンにできて、効果的なのが「読み聞かせ」です。
時間は、10分間ほどでかまいません。絵本や童話を読んであげるとよいでしょう。
続けると、必ずや子どもに聞く力や集中力が育ちます。
感動をさそう物語なら、情感豊かな子どもに育ちます。
文字や本に興味をもち、読書好きの子どもになります。
それ以前に、子どもは喜び、親と子の絆が深まるでしょう。
児童文学者である松居直さんは、幼い頃、お母さんが絵本を読んでくれたことで至福の時を過ごしたと、いまでもありがたく思うそうです。
仕事で忙しく疲れているお母さんが、自分のために夜寝る前に読んでくれることで、幼心にお母さんの愛情をめいっぱい感じることができたからです。
松居さんが大人になって福音館書店を創設し、長く絵本作りの立派な仕事ができたのは、その幼児体験のおかげかもしれません。
同じ本を何度も読んでいい
講演会で、私はいつも読書や読み聞かせのを大切さお話しします。
ある講演会のあと、小学生をもつお母さんがこんな質問をされたことがありました。
「うちの子は、ある本が好きで、そればっかり読んで読んでとせがむんです。親としては、他の本にも目を向けてほしいのですが、どうなんでしょう?」
私はそれに対して、次のようにお答えしました。
「何度も何度も同じ本を読んでもらったり、読んだりできるってすばらしいことですよ。歌人の俵万智さんは、3歳のときにある本がすごく好きで、お母さんにその本ばかり読んでもらっていたそうです。そのうち、その本を全部暗記して、空で言えるようになってしまったとのこと。俵さんがその後、読書が好きになり、歌の世界に入って活躍されるようになったのも、そういう幼児体験があってのことではないでしょうか」
母親になった俵万智さんも、息子さんにせがまれて、読み聞かせのとき、「もっかい! もっかい!」とせがまれることがあるそうです。
そんなふうに子どもが同じ本を何度も「読んで、読んで」と意欲をもつことはいいことです。
そんな本に出合えたということも、すばらしいことです。
どうか無理のないように、何度でも読んであげてください。
私もクラスの子どもたちに、よく読み聞かせをしてきました。
浜田広介著『泣いた赤おに』、ハンス・ウィルヘルム著『ずうっと、ずっと、大好きだよ』、斉藤隆介著『花さき山』、ウィーダ著『フランダースの犬』など。
子どもたちのキラキラ光る目の輝きと笑いと涙が、そのわずかな時間に生まれました。
そうして、読んであげた本を、子どもたちは競って自分から読むようになりました。
読み聞かせは、聞く力を高め、心を豊かにし、未来を切り開く教育なのです。
「読み聞かせ」をする。