本を読むことは知的な行為です。
それだけでなく、心を耕し育てる行為です。
本を読むことにおいて、子どもも大人も人間として成長していきます。
第26回(1998年)国際児童図書評議会世界大会で、美智子皇后様が「橋をかけるー子ども時代の読書の思い出―」という講演をされました。
美智子皇后様の初めての講演とあって、テレビでも放映され大好評を博し、同名タイトルで収録された本も出版されています。
その講演の中で、皇后様は、子ども時代に読まれたさまざまな本やその読書体験を回想されながら語られました。
「振り返って、私にとり、子ども時代の読書とは何だったのでしょう。何よりもそれは、私に楽しみを与えてくれました。そして、その後に来る、青年期の読書のための基礎を作ってくれました。それはある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと翼は、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに大きな助けとなりました」
皇后様が、少女時代に繰り返し読まれた本の中に、新美南吉の童話『でんでんむしのかなしみ』があります。
一匹のでんでんむしは、ある日、自分の背中に悲しみがいっぱいつまっているのに気づきます。
でんでんむしは、その悲しみに押しつぶされそうになり、友達のところへ助けを求めに行きます。
「わたしはもう生きていけません」
すると、友達のでんでんむしは言うのです。
「あなたばかりではありません。わたしの背中にも悲しみはいっぱいです」
でんでんむしは、そこで別の友達を訪ねることにします。
しかし、次に訪ねた友達も、その次の友達も、またその次の友達も同じことを言うのです。
とうとう、でんでんむしは気づきます。
悲しみは、だれもが持っている。
自分も悲しみをこらえて生きていかなければならないのだ、と。
皇后様は、この現代への切なる願いを込めて語られました。
「悲しみが多いこの世を子どもが生き続けるためには、悲しみに耐える力が養われるとともに、喜びを感じとる心、また喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います」
読書は、子どもたちが悲しみに耐え得るしっかりした「根っこ」を育てます。
そして、子どもたちが生きる喜びに向う強い「翼」を育てるのです。